_2020.09.14_Takuro Nakamura
個人勝負は、もうやめよう。ぼくらの美容室が指名予約を推奨しない理由
*この記事はnoteからの転載です。
ぼくは、北参道で『らふる』という美容院の経営をしています。
現在、美容室の店舗数は全国に25万軒以上あるといわれ、その数はコンビニ店舗数の約4倍以上。今も美容院の店舗数は増加傾向にあり、美容室戦国時代と言っても過言ではないかもしれません。
そんななか、『らふる』は現在創業4年目。今年10月に2店舗目のオープンを予定しています。
新型ウイルスの影響で投資を控える企業が多いなか、「よくそんな強気な決断をしたね」と言われることもあります。ですが、経営状況を見ると、前年比からの売上の伸び率がよく、投資判断としては決してリスクの高いものではないと思ったからです。
美容室戦国時代のなか、なぜ僕らのお店は成長を続けることができているのか――。
要因は色々あると思いますが、一般的な美容室とは違う「評価制度」を採用していることが大きいのではないかと、ぼくは仮説立てています。
多くの美容室で、美容師はお客様からの「指名」をもらうことを一番に考えています。大抵の場合、指名売り上げの給与に対する歩合率が高く、フリー予約は歩合率が低く設定されています。場合によっては歩合がつかないなんてことも。お客様と美容師との関係を築くことで顧客離れを防いだり、指名という評価による美容師のモチベーション向上のために、この制度を採用している美容院がほとんどです。
ですが、ぼくらは、あえて指名評価の仕組みをやめました。
なぜ、この仕組みを採用しないことが成長に繋がるのか? 今回のnoteでは、その考えについて、お話できればと思っています。
“店”の顧客なのか、”個人”の顧客なのか?
おそらく大抵の人は、馴染みの美容室に行くときは、担当美容師を指名しているのではないでしょうか。
髪は体の一部なので気の許せる人にお願いしたいし、自分の髪のコンディションや癖について既に理解している人にお願いしたい気持ちもあるでしょう。また、「一回カットしてもらったのに別の人にお願いするのも、なんだか気が引ける」と、感じる方もいらっしゃるかもしれません。
美容室側が予約を受ける時に、指名する美容師の有無を確認するので、「指名をしたほうが、お店的にいいのかもしれない」とお客様が感じてしまうことも影響しているかもしれません。
ですが、この指名する状態が続くと、どうなるか――?
“美容室”のお客様ではなく、美容師”個人”のお客様になっていきます。
何年も同じ美容室を通っているのに、いつも指名している美容師以外は全く知らないという人は、少なくないのではないでしょうか。
実は、美容室業界では、人気美容師の独立や他店への転職時に、顧客がごっそり抜けて、売上が急激に下降することがよくあります。人気美容師の存在感がサロン内で強すぎると、指名が集中し、他の美容師の売上が上がりにくい状態になったりするので、移籍や独立の度にお店が危機に陥るのです。
美容室の経営者として長く存続する店を目指したいと思うと、この指名制度とは、果たして導入・継続すべきかと疑問を持ちます。
“経営”はできても、”ファン”は育たない
また、この指名制度には大きな弊害があります。
顧客の奪い合いで、美容師同士がギスギスした関係になることです。
その理由は、「指名あり」と「フリー(指名無し)」で、給料に大きな差をつけているからだと思います。大抵、美容師の給与は歩合制ですが、指名売り上げの歩合率は高く、フリー予約は給与に歩合率が低く設定されていたり、フリー予約には歩合がつかないところもあったりするくらいです。
この給与体系が定着している背景は、手っ取り早く儲けたいと考える美容室経営の体質と、手っ取り早く儲けたい美容師側の想いが交わっていることに起因しているのだと、ぼくは思います。
冒頭でお伝えしたように、現在は美容室の店舗数が多く、顧客の奪い合いが続いています。そのため、店側は広告媒体に高額な掲載料を支払い、目のつきやすいページに掲載しようとします。さらに、格安のクーポンを打ち出し、予約枠を多く空け、フリー予約のお客様をガンガン獲得していく戦略をとるのが一般的です。
一方、広告費が高まっていくので、人件費を安く抑えないと利益が確保できません。そのため、フリー予約では、美容師側への給与は低く抑える仕組みになっていることが多いのです。
この状況下では、美容師はフリー予約をどれだけ対応しても、給与はあまり伸びません。とはいえ、フリー予約を対応しないと、指名予約をもらうことはできません。ただ、どんどん予約を対応しないといけないので、1人のお客様に時間をかけられず、丁寧さや配慮に欠け、指名がもらいにくいというジレンマに陥る若手美容師が多いのも事実です。
他の美容師のサポートをする余裕がなく、どうしても自分のことでいっぱいになります。他人の客は他人の客と、いつしかスタッフ間での関わり合いが薄れていき、個人商店の集まりのようになってしまうのです。
指名を勝ち取る技術を持っている美容師と、お客様を手早く効率よく集めたい美容院からすると、このやり方は最適なのかもしれません。ただ、これでは美容室の”経営”はできても、美容室の”ファン”は育ちません。
ぼくは美容師個人にファンができること自体は全く悪いことだとは思っていませんが、長く存続する店を目指そうと思うと、個人を超えて、”お店自体”がお客様から愛されることが大切になるはずです。
この点からも、指名制度は、ぼくらが目指す美容室には相応しくないのではと感じました。
ハズレのない、くじ引き
ぼくが思うに、お客様の立場からすると、同じ美容師に毎回担当してもらうより、色々な美容師に担当してもらうほうが、新鮮味があって面白いという感覚もあるはずです。
もちろん、美容師によって、当たり外れがある状態は好ましくありません。お顧客様の髪のコンディションや癖などはスタッフ間で共有して、安心して髪を任せられる状態を整えることが前提なのは言うまでもありません。また、サービスにバラつきが起らないように、『らふる』らしいサービスとは何かを全スタッフでしっかりと共有することも大切です。
ただ、そうした前提の上で、美容師ごとの個性を楽しんでいただく。
ぼくたち『らふる』が目指すのは、誰がやっても変わらない。
ではなく、誰がやっても素敵になる。です。
互いのコトを気にかけ、自分の手が空いていれば他のスタイリストのサポートにつく。掃除なども立場関係なく全員が行うし、カラーやパーマのヘルプも積極的に入っていく。こうした流れができてくると、担当以外のお客様とも自然と会話が生まれるはずです。すると、いつも指名している美容師が体調不良などで休んだ際には、代わりに違うスタッフを指名したりして、少しずつお客様とお店の関係が広がっていきます。
実際、『らふる』では常連のお客様のフリー予約数が多いのが特徴です。
その理由をお客様に伺うと、「誰が担当になっても楽しいし、素敵にしてくれる安心感があるから」と多くの方が答えてくれました。
ハズレのない、くじ引きのような感覚。
そんな美容室をぼくらは目指しているので、こういった評価をくださる常連のお客様が増えていることは、本当に喜ばしいことだと感じています。
チームが育ちやすい環境を整える
指名ありとフリーで、給料に差をつけることを廃止している『らふる』では、自分のお給料を上げる最大の手段は、美容室全体のお客様をどう増やしていくかになります。
売り上げに対する歩合制は導入していますが、お店全体の売上が高まれば、お給料の原資が増え、皆一律のボーナスとして反映されるからです。
すると、他のスタイリストのサポートを率先して行うようになり、自発的により良いお店にするためのアイデアやサービスの改善案が自然と会話にあがるようになりました。互いを認め合う敬意と尊敬を持てているように感じます。
指名評価をしている美容室で起こりがちな「個人の集まり」という状態から、「チーム」として機能する状態になってきたように感じます。
美容室戦国時代のなか、お客様から評価をされ、価値を感じていただけるお店として存続していくためには、やはりチームの力が一番大切になるのではないでしょうか。
美容室経営というと、いかにお店を魅力的に見せるのかというブランディングや、いかにカリスマ美容師を育てるかが主な仕事だと思われてきました。ですが、これからは「チームが育ちやすい環境を整える」が、一番大切な仕事になってくるのではないかと感じています。
これからも、このnoteでは、ぼくが感じたチームづくり・組織づくりで得た学びをシェアしていきたいと思います。
最後に、『らふる』をご利用いただいているお客様は、よかったらフリー予約を取ってみてください!
きっと、ぼくらの新しい一面が見せられると思います!
編集協力:井手 桂司
【お知らせ】新店舗展開に伴いスタッフ募集中!
『らふる』は、「暮らしを紡ぎ、笑顔をつなぐ」を理念に「末長く楽しめる髪をあなたに」というビジョンを掲げています。
目標は100年続く美容室となること。
開業からここまで、「こうした方がより良いね」「こうした方がもっと楽しいね」と思うことに忠実に、物事全てをトップダウンで決めていくのではなく、みんなで意見を出し合い、話し合い、さまざまな変化をつけながら運営をしてきました。
この度の新店舗展開に伴い、互いに切磋琢磨し共に成長していける仲間を募集します。我こそは、と思う方。是非ご応募いただけますと幸いです。
【 応募要項 】
①スタイリスト
②アシスタント
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