_2020.11.10_Takuro Nakamura
茶室のような美容室『らふる 其の二』はじめます。
*こちらの記事はnoteの転載記事です。
ぼくが経営する美容室『らふる』は、オープンから約3年半が経ちました。そして、11月11日、2つ目の店舗がオープンします。
名前は『らふる 其の二』
場所は、原宿駅と北参道駅と表参道との中間です。
これまでやってきた1つ目の店舗を本店と呼ぶなら、本店からは歩いて2~3分の距離。ぼくにとって2号店がオープンしたというより、本店が「母屋」、其の二は「離れ」のような感覚です。
この『らふる 其の二』は、当面、スタイリストは中村のみが在籍する、個人店舗のようなもの。中村を指名いただくお客様は、本店ではなく、其の二で施術を受けていただきます。
この新しい店舗は『らふる』の名前を冠しているくらいなので、これまで本店で大切にしてきた価値観を受け継ぎ、『らふる』らしい美容室に育てていくつもりです。その一方、ぼくらが理念として掲げている「くらしを紡ぎ、笑顔をつなぐ」とは何を考える上で、本店とは少し違ったアプローチにも挑戦していきたいと考えています。
挑戦のキーワードは「旅館的」「茶室」。
今回、この言葉の意味を紹介させてください。
「くらしを紡ぎ、笑顔をつなぐ」の形は一つではない
まずは「旅館的」について。
旅館とホテルの違いについて極端に考えると、以下のように分けられると思っています。
・ホテル=お客様の求めるニーズにきめ細かく応えるサービスに感動する
・旅館=女将さんや主人のおもてなしの流儀に浸って味わう
お客様にあわせてホストがサービスを整えていくのがホテル的だとすると、ホストの流儀をお客様が嗜むのが旅館的なのかなと。もちろん、実際の旅館やホテルは、どちらのアプローチも混じり合っていると思うんですけどね。
僕たち『らふる』も、ホテルと旅館の両方の思考のバランスを取りながら、あるべき姿を考えてきました。
お客様が美容室に求めていることは何かをスタッフ同士で話しあう機会を定期的に設け、こうすべきと思うことは実践してきました。お客様から、お話を伺うこともあります。そういう意味では、ホテル的なアプローチでサービスを磨いてきた一面があります。
同時に、ある種、美容師としてのエゴを打ち出している一面もあります。お店で使用するヘアケアや機材などのアイテムをはじめ、お客様に使っていただく椅子やタオル、お客様にお出しするお茶などには、ぼくらのこだわりが詰まっています。そこには、旅館の女将さんのように、ぼくらなりのおもてなしを味わってもらいたい想いがあります。
こうして、ホテル的・旅館的な両方のアプローチで、らふるは多くのお客様からご支持をいただけるお店として育ってきました。また、スタッフが皆、成長し「みんなのらふる」と呼べる状態になってきたと感じます。
そう感じた時、ぼくは経営者としても美容師としても、今のらふるをみんなに託し、さらなる新しい可能性をつくることにチャレンジしたほうがいいのではないかと思うようになりました。なぜなら、らふるが理念として掲げる「くらしを紡ぎ、笑顔をつなぐ」美容室のカタチは一つではないはずだからです。
こうして『らふる 其の二』の構想は、はじまりました。
そして、まずは旅館的な思考で、ぼく個人として、完全にエゴ丸出しで、どんな場をつくってきたいかをゼロから考えはじめたのです。
『其の二』では境界線をあえて引きます
とはいえ、ぼくのエゴ丸出しで『其の二』をつくると言っても、本店にもぼくのエゴは大きく反映されているので、丸っきり別物というわけではありません。まだまだ創設者である僕の考えが色濃く反映されています。
ただ、ぼくがやってみたいと思ったのは、お客様との関係性に少し変化を持たせることでした。
実は、本店では、お客様と美容師の境界線をあえて曖昧にしています。
大きなカウンターで部屋を区切っているだけで、お客様とスタッフの滞在する場所にハッキリとした区分けがありません。また、鏡を壁一面に張っていて、スタッフの姿は常にお客さんに見えているし、その逆も然りです。お客様との会話が途切れることなく、準備や片付けを行えることで、アットホームな関係を築き、明るく心地よい時間を過ごしてもらいたいという意図から、表と裏がないオープンな場にしています。
ですが、『其の二』では境界線をあえて引きます。
これは、お客様と距離を取りたいというネガティブなものではありません。
お客様からは見えないスペースを設け、そこでカラーやパーマなどの準備をします。レストランで言うところの、オープンカウンターでシェフが料理の下準備をしている様子が見えるのが本店だとしたら、其の二は厨房が裏にあるようなイメージです。
空間をアットホームな場から、ホストとゲストの境界線のある場へと変えることで、美容師として求められる振る舞いが少し変わるのではないでしょうか。そして、この差から得られる気づきは、小さくないと思うんです。
そんなことを考えていた時に、閃いたのが「茶室」というコンセプトです。
茶室では、もてなす側の亭主と、もてなしを受ける側のお客さんとに分かれますよね。ただ、茶の湯の席での関係はフラットで、お互い気兼ねすることなく打ち解け合うのが茶室です。『其の二』では、ぼくらは「もてなす側」という意識を一層強く持ちつつも、お客様には堅苦しくない心地いい時間を過ごしてもらう。そんな場所を目指したいと思います。
だから、『其の二』は茶室のような少しこじんまりとした造りになってます。その空間の中に、ささやかなこだわりが詰まっています。
たとえば、格子に使われている模様。
この格子の模様は「青海波(せいがいは)」という名前がつけられています。
広い海がもたらす恩恵を感じさせる柄で、無限に広がる波の文様に未来永劫へと続く幸せへの願いと、人々の平安な暮らしへの願いが込められた縁起の良い柄です。「末長く楽しめる髪をあなたに」や、「笑顔がつづく美容室」というらふるが目指している想いや形にぴったりで、その姿勢を体現できる柄だと感じました。
また、床にも水墨で描いたような流れ模様を施し、入り口の玄関マットも波模様のものを採用しました。
こんな風な、想いのこもった遊び心を散りばめています。
最後に…
ということで、いよいよ『らふる 其の二』が、始まります。
色々と書きましたが、これまで通り気軽に足を運んでいただければ幸いです(笑)。
ぼく自身、深い想いや狙いがあってやったというより、こういう展開をしたほうが面白そうという直感や衝動に導かれたのが正直なところです。
新型コロナウイルスの影響もあるなかで、新しい店舗を出すなんて強気だねぇ…とか、勇気あるねぇ…と言われたりもするのですが、たまたま理想的な物件が借りられたり、お金の面の都合がついていたタイミングだったとか、うまい具合に条件が揃ったのが、今だったんです。
そして、『らふる 其の二』ができたことで、『らふる』本店も少しずつ変わっていくのではないかと思います。
これから『らふる』本店は、オープンから一緒にやってきた相方の安田が店長になります。ぼくが本店から離れることで、店長・安田をはじめ、他のスタッフみんながどんな風に本店を進化させていくのか、楽しみにしている側面があります。
ぼくが掲げた目標に乗ってくれたスタッフ達が切り開いていく『らふる』のこれから。ぼくの想像だにしなかった魅力をどんどん生み出し、笑顔溢れる毎日を作っていってくれると信じています。
とはいえ、本店も其の二も、『らふる』の理念である「くらしを紡ぎ、笑顔をつなぐ」という軸からブレずに、これかも両店支え合い、お客様に喜んでもらえる美容室のあり方を模索していきます。
ちなみに、『らふる 其の二』のロゴマーク。「の」は”陰と陽”を表しています。
「陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる」と言いますが、本店と其の二で支え合い、影響を与えあい、我々が目指す姿に向かっていこうとする想いをデザインに落とし込んでもらいました。
どうぞ今後とも『らふる』を、よろしくお願いします!
編集協力:井手 桂司