_2019.05.08_Takuro Nakamura
髪を「デザインする」について考える
【中村の経営雑感】
私たち、美容師はお客様の髪を切ったり、染めたり、曲げたりすることによって、様々な髪型をご提供することが主な仕事。
しかし、アシスタントの頃、先輩たちから教わった一揃いのカットやカラー・パーマの技術を習得しても、
人気のヘアスタイルをどんなに真似ても、
なんだか掴みきれていない感じというか、自分のものにできていない感じがずっとありました。
美容師歴10年程度しかない私が『デザイン』についての考えを書くのは
おこがましいのですが、正解を提示するためではなく
自身の考えを一度整理していくことで、ここからもう一回り成長することができるんじゃないか。
そう思ったので、感じたことをメモとして。
あるいは、同じようにより良い美容師になろうと奮闘している人たちが
これを見たときに視野が広がるようなヒントくらいになればいいな。
と、いう心持ちで綴ってみようかなと思います。
髪を「デザインする」について考える
「Laughfulに来るお客さんはどんなヘアデザインを求めるのか。」
「私を指名してくださるお客様は〜。」
こんなことを考えながらお客様の髪と向き合っているのですが
ただ可愛いヘアスタイルを作ることを『デザイン』とするだけなら
「私」や「らふる」でなくてはならない理由はそのうちになくなっちゃうと思うんです。
優れたデザインが施されたプロダクトは、使い続けたくなる。
例えばiPhoneとかね。
つまり、何度も使いたくなるような魅力を放つ『デザイン』の根幹はもっと深いところにある。
可愛いスタイルは、ある程度の経験を積んだ美容師なら同じように作ることは可能です。
すると、現段階では突出していたとしてもお客様はある時点で他の美容師でも良くなってしまうかもしれない。
似たような技術力、似たような空間なら
より通いやすい場所や、手頃な値段のサロンに行くでしょう。
僕が客側だったらそうします。
でも、お店に通い続けてくれているお客様もいる。
他のお店でも、他の美容師でもできるはずなのに
なぜ、お客様は通い続けてくれているのだろう。
あるとき
デザイナー 山中俊治さん(ICカードを使用する自動改札機を設計された方)
の美容師にも深く関係してきそうなデザインに関する記事を見つけました。
その中にあったのは
「デザインの本質は見た目をかっこよく仕立てることではなく、設計をすることだ。」
という言葉。
私達が日常よく使っている『デザイン』という言葉は本来の意味からずれているとのことでした。
私たちは「デザイン」という言葉を聞くと、「形や模様」を連想してしまいます。
しかし実際は、単なるスタイリングではなく、
その背景にある機能や技術、解決したい問題を理解した上で、見た目を調整すること
が本当の意味でのデザインなのだと説明されていました。
“せっけい
【設計】
《名・ス他》ある目的を具体化するためのもくろみ。特に、土木・建築工事や機器などの製作の計画を図面や計算書などで具体化すること。 「建物を―する」”
美容室では、お客様とのカウンセリングや様々なお話の中から、
感覚的に何かを捉え、ヘアスタイルを考え
【提案→施術→完成】という基本的な流れを繰り返します。
その流れはどの美容室もほぼ同じ。そしてどの美容師もほぼ同じ。
ほぼ同じ流れの中で、
他との違いを生む優れたデザインとなる要素は、突出した可愛い・綺麗・カッコイイ『髪の形』を作ることだとばかり思っていた。
駆け出しの頃から感じていた違和感は
「何のためにその形にしているのか。」
がはっきりと見えていなかったからだと気がつき
ぼんやりとしていた感覚が、徐々に輪郭を持って鮮明になってきたように思います。
「髪をデザインする」とは、単なる見た目へのアプローチではない。
ヘアセットが主流だった時代に女性のヘアカットスタイルを確立したヴィダルサッスーン
(http://www.asahi.com/fashion/beauty/TKY201205270120.htmlより)
彼はかつて、事故で片目を失ったモデル:Peggy Moffatt(ペギーモフィット)に対して
美容師ならではの方法で彼女の願いを叶えたそうです。
彼女のために考案されたのはアシンメトリー(左右非対称)なヘアスタイル。
その髪型は眼帯のような役割を果たしながらも、モデルの良さを引き立たせ、それによってモデルの自信を取り戻した。
とってもカッコいいデザイン提案だなと何度聞いても思うんです。
ここに美容師としての「デザイン」の本質があると思うんです。
お客さんは、単に「かっこいい・かわいい髪型」が欲しいのではない。
素敵な髪型になることだけを望んでいるのではなく、
何か問題や悩み、願いがあり、髪を整えることによってそれらを解決したいと思っている。
それが、私たち美容師に求められるデザインの本質。
【美容師という手段で、髪型を設計し、問題を解決します。】ということ。
お客様は、素敵な髪を手に入れたその先に待っている何を得たいのか。
もしかしたら、お客さん自身も言葉にできてはいないかもしれない。
気持ちを切り替えたかったり、自信を取り戻したかったり、新たな魅力に気がつきたかったり。。
そういった前向きな気持ちが根底にはあるはずなのです。
提供側である美容師は、それらを汲み取った上でデザインを決定しなくてはと思うんです。
最後に:らふるが提案するデザインとは何か
僕は、「笑い声いっぱいの毎日」を過ごしたいし、周りの方々の毎日もそうあって欲しかった。
だから美容を通じてその一端が担えたらと、店名をLaughful(らふる)としました。
らふるが提案するヘアデザインは、全てお客様の毎日がLaughfulとなるためのもの。
Laughfulに与えられたミッション
・自分を愛せるようなヘアスタイルを絶えず作り続けること。
・誰もが自分らしく髪を楽しめる美容室であり続けること。
・美容業界の既存の常識を覆し、新たな常識をつくる大きなうねりの一つとなること
・髪を通して「organic」「eco」「ethical」「LOHAS=Lifestyle Of Health And Sustainability」を提案し、持続可能な社会を創ること。
Laughfulの考え
・ケミカルでなくては、できない技術はケミカルな製品で(グリーンケミカル)
・ケミカルではなくても、補えるところはオーガニックな製品で
・アレルギーをお持ちの方や刺激が気になる方には、対応したメニューで施術
・オーガニックでもアレルギーでも、お洒落は楽しめて当たり前
・最も適した方法で施術し、お客様には煩わしさを感じさせずに持続可能なヘアスタイルを
これらを満たしたヘアスタイルを提案し続けます。
また、毎日に忙殺され、精神的な豊かさを感じる毎日が送りづらくなっている現在。
僕が髪をデザインする上で意識しはじめたのは
『お客様の朝の時間を10分縮める』ということ。
お客様が髪を扱う場面を考えたときに、圧倒的に多いのはセルフセットの時間です。
様々な問題が解決されるような素敵なヘアスタイルを提供するのは、美容師に求められる本質。
さらに、簡単にスタイリングができ、朝の時間を10分縮められたら、1年間で3,650分の時間が浮きます。
その時間で、子どもと過ごす時間を少しでも増やしたり
自分のために使う時間やバリエーションを増やしたり
10分多く寝たって良い。
その時間を生み出すお手伝いができたら最高です。
そういった積み重ねで、社会がいい方向に転がるところまでを意識することが僕のデザイン。
ただ髪がはねないようにするとか、
重すぎるから軽くするとか、
ペタっとするからふんわりさせるとかそんなレベルを求めているわけじゃない。
「コンセプトにマッチした設計。」という捉え方。
これに気がついてから、少しだけ成長できたように思えるのです。
これが、現段階での「髪をデザインする」の定義。